前号の続き。道教委の統廃合政策を説明するに当たって、「小規模校は無くなっても仕方が無い」とこの場にいる学生が思えば講義は失敗だ。だからボクが勤務していた古平高校のイメージを伝えることにした。

古平高校(今は統廃合されてありません)の概況をまず説明した。学力の輪切りの中で、古平町、積丹町美国の生徒の多くは小樽市内の高校を目指すこと。そこに入学できなければ余市高校・仁木商業高校を選択し、それでも入れない生徒の入学が多かったこと。ただし、勉強が得意でも交通費が払えない家庭の生徒や、下宿しないと古平高校以外の高校には行けない積丹町の奥の生徒が入学していたことを説明。そして、写真にある道教委の実態調査の結果を見せて解説。

 「この調査を見て下さい。もし学習に自信の無い生徒の多い古平高校の生徒が『コンビニ弁当の様な授業』を受けていたならば、ほとんどすべて「勉強は好きではない」の方にアンケート結果は偏りそうですが、全道平均を上回るような結果が出ています。これが、ボクだけでは無くて、どの教科の先生も「お袋の味」のような授業になっていたことを示しています。例えばこの生徒さん(授業中の生徒の写真を指して)は文字を団子で読めません。例えば、だんご と書いてあれば だ・ん・ご と一文字ずつ読んでから頭の中で「だんご」と理解してイメージするような生徒さんですが、家では牛を100頭くらい飼っていて、その模様を見ただけでどの牛かが分かり、体調を把握することもできます。そういう生徒さんの情報をボクだけで無くて、教員みんなが知っているというのはすごいことだと思いませんか?皆さんのことを高校の先生方はこのように把握していたでしょうか。そして、『いや~あの子にこんな授業をしたら発言したさ~』などという会話が職員室でされているのです。これが教育だとボクは思います。」

というと、学生さん達は生徒と教師の距離感に驚いたようだ。

そして小規模校の授業を「お袋の味」としたボク自身の所属校(大規模校)での授業の感想を学生に見せる。

 

3-6 23番 O 菜摘(科学と人間生活2018)

大勢で教科書を開き授業を受け、静かな中で人前で発表することが苦手な私にとって、科学と人間生活の授業は緊張しすぎずに楽しく学べる時間でした。良い経験となったのは、単元ごとに感想を書き、それをプリントにしてみんなで読むことと、エネルギー政策発表です。自分の思ったことを言葉にするのが難しく、考え方が周りの人と違っていたら恥ずかしいと思っていましたが、感想を書いたり読んだりすると、自分が思っていたより同じ考え方やものの見方が同じ人がたくさんいて、大げさかもしれないけれど、自分に自信を持つことができました。

 

3年1組31番 K 花菜(化学2016)

化学の授業がある日はワクワクした。今日は何するのかな?って考えるのが楽しかった。高校に入ってから挙手をする事があまりなかった。だけど、道端先生は常に生徒の意志を尊重してくれていたと思う。教科書は読みたい人に読んでもらう。そのやり方が私には心地よかった。高校3年生でようやく楽しい授業に巡り合えた気がした。卒業しちゃうけど、先生の授業は一生心に残る授業でした。本当に最後の授業が道端先生で良かったです。1年間ありがとうございました。

 

2年4組 N あさぎ  地学基礎2014

一番心に残っているのは原爆と原発の授業です。どこか遠い所にあると思っていたので、衝撃的でした。教科書や新聞が一気に3Dになって襲いかかってきた感じ(イメージです)。やっと現実とつながった感じでした。テストや内申点のための授業ではなく、私たちの今後の人生に本当にためになる授業をして下さって感謝だなと思います。この一年で本当に数えきれないくらい多くの事に興味を持ち、読んだり調べたりするようになりました。地学のおかげです。ありがとうございました。

 

こんな感想を紹介して、自慢した。

「こんな感想は教師だったらなかなか貰えないでしょうし、皆さんも高校の先生になかなかこうは書かないでしょう。大規模校でボクがこんな授業ができる様になったのは小規模校で『お袋の味』のある授業ができる様になったからだと思います。」

と自分のハードルを高くしてから言った。

「では,皆さんに、お前のいう『お袋の味』はどんな味かちょっとだけ体験して欲しいと思って、道具を持ってきたので、授業を少しだけ受けてくれませんか?」と言って、風船を膨らませた。これは通称地球風船(気象観測用の風船)と言って、直径1.3mくらいまで膨らむ風船。「これは何だと思いますか?」と言うと、「地球!」と当てずっぽうを言う、ノリの良いスポーツマンぽい学生。「いいねえ!よく分かるねえ」とボク。完全にボクのペースになった。

それでこんな問題。

『地球をこの大きさにすると、(     )の(   )さはどれくらい?』

ア.1mm

イ.5mm

ウ.1cm

エ.3cm

オ.5cm

カ.10cm

キ.それ以上

 

  • エベレストの高さ ②海の深さ ③大気の厚さ

 

について考えてもらう。山の模型を風船に載せながら手を挙げてもらうと①エベレストは1人しか当たらなかった。②海の深さも3人 ③大気の厚さも ほとんど当たらなかった。20分ほどボクの授業をみんな楽しんでくれた。「お袋の味」の一端が分かったかもしれないので、もう1問付け加えた。ではこの地球だと、先日のアラートが鳴った北朝鮮のミサイルがどれくらいの高さまで飛んだのでしょう?1cmくらいが一番多く、誰も当たらないわけだが、地球の半径ほどの高さまで上昇していることを知ると驚く。「空を見てびびっていた人」がどれだけ愚かか、そして『なぜ、日本を狙っているようなミサイルはもっとたくさんあるのにアメリカに届くようなミサイルを飛ばした時だけアラートが鳴るのでしょうね』と言って『お袋の味』コーナーは終わった。

 肝心要の「道教委の統廃合政策」を説明する時間はあと30分ほどになっていた。(続く)