戦後憲政史の汚点、憲法違反の「戦争法案」強行という安倍政権の暴挙に満身の怒りをもって抗議するとともに、憲法を国民の手に取り戻すまで徹底してたたかう(声明)

■立憲主義否定、憲法違反の「戦争法案」強行に満身の怒りを込めて抗議する 9月19日、安倍政権は「戦争法案」(安全保障関連法案)を、参院本会議でも採決を強行し、自民・公明の与党に加え、次世代の党・新党改革・日本を元気にする会の賛成多数で可決した。立憲主義に反し、国会審議で立法事実が総崩れになるなか、国民の圧倒的多数の意見に耳を傾けず、採決を強行したことに満身の怒りをもって抗議する。
 そもそも、参院特別委員会での採決は「丁寧な説明をしていく」という首相の言葉とは裏腹に議論が尽くされないなか総括質疑さえ行わず、混乱と暴力、怒号のなか速記録も作成できない状況であり、どの法案や修正案、付帯決議に誰が賛成、反対したかもわからず、採決自体が無効であり、本院での採決、ましてや法案成立など到底認めることなどできない。
■国民のものである憲法を勝手に変更することなど許されない 本法案は「集団的自衛権」を行使できるようにして他国同士の戦争への参加を可能にすることが柱である。多くの憲法学者や最高裁元長官、内閣法制局元局長らが「憲法違反」とどんなに指摘しても、政権と与党は「合憲」と言い張る傲慢さを崩さなかった。そもそも集団的自衛権の行使を「憲法違反」としてきたのは、他ならぬ政府自身である。戦後制定された日本国憲法は第九条で、国際紛争を解決するための戦争や武力の行使、武力による威嚇は行わないと定めた。日本人だけでも310万人もの犠牲を出し、近隣諸国に多大な被害を与えた先の大戦に対する痛切な反省にもとづく国際的な宣言でもある。実力組織である自衛隊をその後持つに至ったが、自衛権行使は専守防衛のための必要最小限という政策を貫いてきた。自民党を含む歴代内閣が踏襲してきたこの解釈は、国会や政府部内での議論の積み重ねの結果、導き出された英知である。一内閣が恣意的に変更すれば、憲法の規範性や法的安定性が失われる。正当な手続きを経ず解釈による変更など、決して許されるはずもない。首相は、徴兵制は憲法が禁じる苦役にあたるとして否定したが、一内閣の判断で憲法解釈を変更することができるなら、導入しないという担保は全くない。現憲法が保障する表現の自由や法の下の平等も制限される可能性を否定できない。政権が立法趣旨を逸脱して勝手に解釈で改憲できるなら、憲法は主権者国民の手を離れ、政権の意のままになってしまう。立憲主義を否定するこのような暴挙は絶対に許されない。
われわれ国民は首相に全権委任した覚えなど微塵もない。各世論調査でも「戦争法案」への「反対」「違憲」の声は半数を超え、今国会での成立反対は6割に、法案の説明が不十分は8割にも上る。「法案が成立し、時が経ていくなかで間違いなく理解が広がっていく」(9月14日、首相発言)ことなどありえない。国会周辺はもとより、全国各地での法案反対、廃案を求める行動は、憲法破壊への国民の切実な危機感の現れであり、その声を黙殺することは民主主義の否定につながる。安倍政治は、立憲主義ばかりか民主主義までも踏みにじる亡国政治であるという誹りを免れない。
■影響の及ばない人は誰ひとりいない 安倍政権は、本法案を可決成立させたとして、今後、軍事費の増強をはかっていくだろう。今年度の概算要求では5兆円を超え、米日一体化の軍事行動が進めばさらに増大することは確実だ。そのために軍事費以外のあらゆる分野の予算削減を行い、消費税の増税と併せて「戦争する国」「企業が世界で一番活躍しやすい国」づくりを現にすすめている。労働者に「生涯ハケン」を押しつけ「正社員ゼロ」を目論む労働者派遣法の改悪(今国会で成立)、マクロ経済スライドなどによる年金受給額の削減、生活保護受給を押しとどめようとする水際作戦など、痛みと不安を国民に押しつけているが、それがさらに増幅する懸念を拭い去れない。
教育では、首相の諮問機関である教育再生実行会議が打ち出す提言を次々と具体化させ、6・3・3・4制を崩す義務教育学校(小中一貫校)創設などの学校教育法改悪、「いじめ防止法」制定や教科「道徳」による特定の指向性をもった人格教育の押しつけ、国の意向を教科書に反映させる教科書検定の強化など、本来、行政からの独立性が求められるにも関わらず、あからさまな政治介入を行っている。地教行法改悪は、首長に任命された教育長によって時々の首長の選挙公約を推進させる機関としての教育委員会をつくることがねらいであり、国・文科省がすすめる「教育改革」を実行させる組織への変節を期している。いわば、幼児教育から高等教育まで国家管理を行い、新自由主義経済の担い手である一部エリート教育の育成、同時に偏狭な歴史修正主義をすり込む教育を推進する体制をつくろうとしている。
■憲法を再び国民の手に取り戻すまでたたかいはつづく いま本法案が可決されたにせよ、憲法を再び国民の手に取り戻すまで、言わねばならないことを言い続けること、憲法12条に言う国民の「不断の努力」が教職員であるわたしたちに求められる。「戦死せる教え児よ」で知られる竹本源治(当時、高知県池川中学校教諭)はその詩の反歌に「送らじな この身裂くとも教え児を 理(ことわり)もなき戦(いくさ)のには(庭)に」と痛切な心情を歌っているが、ここには太平洋戦争中の自らへの反省が込められている。国策に則り教え子を戦地に送った痛苦の反省から「教え子を再び戦場に送るな」と掲げたスローガンの原点である。兵站活動であれ、駆け付け警護であれ、自衛隊の活動内容や範囲は現在に比して飛躍的に拡大し、当然そのリスクは格段に大きくなる。自衛隊の高校生などへの入隊勧誘は、就職ルールに則り戸別訪問はしないことになっているが、その禁則を破り住民基本台帳からの情報を得て実際行われ、高校生ばかりか父母・保護者にも不安を与えている。既に学校を卒業した教え子やこれから巣立つ教え子を、戦闘地域や戦場に送らない運動は、自衛隊だけにとどまらず、医療関係者や通信、運輸の分野も、そしてその家族や友人なども視野に入れる必要があり、その範囲は無限に広がる。「発動」は許されない。
 18歳選挙権により来年の参院選挙から現高校3年生全員と2年生の一部が投票権を得る。当然、有権者となる子どもたちに投票行動を促すと同時にその基礎的な判断材料を提示することになろうが、事実をしっかり見据え事象を批判的に考察する力や自治的に物事を解決していく力を育むことが求められる。教科での学習にとどまらず、学校全体を通してそうした力を養うことを、これまで以上に創造することが求められる。その基礎となるのは憲法を理解し身につけることであり、物事をすすめる上で民主主義を大切にして少数意見にも十分な配慮をすることである。
 わたしたち教職員は今後も、子どもたちに憲法をしっかりと手渡し、主権者としての子どもの意見を大切にする学校づくりを通して、再び憲法を国民の手に取り戻す運動を実践していく。本法案の審議過程で、この法案成立に疑念や不安を抱き、高校生や大学生、子どもを持つ母親、大学研究者にとどまらず、元与党の重鎮たちも声を上げている。連日のように国会周辺に大学生を中心とした若者が集い、自らの言葉で意思を表明している。この現象は、これからの日本の民主主義の在り方を飛躍的に高める行動であり、その礎をわたしたち教職員は築いてきたことに確信を持つべきである。
 わたしたちは今後も全国の広範な人々とともに「戦争法」の廃止を求め引き続き運動を強める。「戦争法」の発動を許さず、安倍政権の退陣をめざして、憲法を国民の手に取り戻すために全力を尽くすことをここに表明する。

2015年9月19日           
北海道高等学校教職員組合連合会
全北海道教職員組合