【声明】 道教委による憲法違反の調査ー「校内におけるクリアファイルの配布等に関する調査について」の通知発出に断固抗議し、調査の中止・撤回を求める

 2015年10月15日 北海道高等学校教職員組合連合会

 北海道教育委員会(以下、道教委)は、10月14日付で総務政策局教職員課服務担当課長名による「校内におけるクリアファイルの配布等に関する調査について」の通知を発出した。調査事項は(1)校内におけるクリアファイルの配布について(2)校内におけるクリアファイルの状況についての2項目について職員に「密告」を求めるものとなっており、各学校からの提出期日を11月2日までとしている。

 今回の調査通知は、9月29日の自民党・藤沢道議会議員の道議会質問に端を発したものだが、政権の暴走になんら反省なく、それを批判する労働組合の活動にまで干渉・介入する質問に応じた道教委の対応は、日本国憲法が保障する労働者の団結権、言論・表現の自由の保障を真っ向から侵すものであり、そのこと自体が「政治的中立」を侵すもので断じて許されない。
 そもそも、指摘されているクリアファイルに印刷された「アベ政治を許さない」との文言は、安倍政権が多くの憲法学者から「違憲」と指摘される「安全保障関連法」をごり押しし、「戦争する国づくり」に向けた政策を推し進めることに対して多くの市民が「憲法を守れ」と立ち上がったスローガンである。そして、各地で開催されるそのスローガンのもとに集う集会などで掲げられてきたものである。道高教組は、「資本・権力と政党から独立し、要求にもとづく団結」「『教え子を再び戦場に送らない』の誓いのもとに、子ども・青年の明るい未来をきりひらく」を綱領に掲げていることから、その運動に賛同して全道の組合員にクリアファイルを送付したものだ。

 この調査実施には、以下に述べる重大な問題が含まれている。

 第1に、この調査は「政権批判は一切許さない」として、憲法21条(表現の自由)を真っ向から否定し、言論の統制を図る戦前の教育体制を彷彿させるものとなっていることである。社会に対する健全な批判力を養うことが、主権者教育の根幹である。その実践が求められている教職員の基本的人権こそ、道教委が守らなければならないものである。教職員を萎縮させて口をつぐませることは、豊かな主権者教育をすすめることに逆行している。

 第2に、クリアファイルは高教組組合員に渡すように各分会に組合員数を送付したものである。道教委が教育長名で発出した通達「教職員の政治的行為の制限について」で指摘している人事院規則第6項「政治的行為」にある「配布」には、なんらあたらず、これまでも組合が宣伝物を組合活動として組合員に渡すことは何ら問題にされてきていない。それを「政治的目的」の「配布」とし、「調査」を行うとしたことは、明らかに組合活動への介入に当たり、憲法28条(団結権)に違反する不当労働行為である。組合機関紙に書かれる「政権批判の記事」まで制限することと同様であり、極めて重大な問題である。  

 第3に、この調査方法は「校内で職員が配布しているところを見たことがあるか」「置かれている、放置されている、職員が使用しているところを見たことがある」と、他の教職員の行為についての見聞にまで及んでいることであり、まさに「密告」「相互監視」を奨励しかねないものになっている。これは、2010年に全道で強行された「服務規律調査」と同様に、校長・教職員相互の信頼関係・協調関係を根底的に破壊されかねず、学校運営や職場に大きな否定的影響を与えることは計り知れないということである。
 道教委は9月1~7日に校長に対して電話で調査をかけている。その結果、5校でクリアファイルの存在を認めているが、藤沢議員が指摘するような校内で多くの生徒の目についた実態や不特定多数の教職員に配布されるような事実は何ら明らかになっていない。そして道教委自身も通達でクリアファイルを机上に置くこと、校内で個人的に使用することは直ちに「政治的行為」に当たると言えないと、通知で示している。にもかかわらず、強圧的に調査を実施しようとしていることは、教育への不当な介入から学校や教職員を守るべき道教委の本来の任務を放棄している。また、学校管理責任者としての校長の権限と責任も軽んじていると言わざるを得ない。「政治的行為」を名目にして、不当な圧力を押しつけられる校長、現場教職員の負担と苦悩は計り知れない。まさに、道教委の教育に対する見識が問われている。

 戦後の教育委員会制度発足にあたり、時の文部省は「教育は未来に備えるものであり、真実をめざして人間を育成する特殊な使命をもっている」として「不当な支配」から教育を守る教育委員会の役割を述べている。われわれは、憲法に反しこの教育委員会制度発足の原点にも反す道教委の今回の調査に対し断固抗議するとともに、憲法21条(表現の自由)、28条(団結権)に違反する調査の即時中止・撤回を求めるものである。

2015年11月2日
道教委のクリアファイル調査問題を考える緊急市民集会