ゆきとどいた教育をすすめるため、一層の高校統廃合をすすめる「新指針」の抜本的な見直しを求める
1.「新指針」は経済的な効率性を優先した「高校統廃合をすすめるための指針」としかなっていない
北海道教育委員会(以下、道教委)は3月28日、2006年に示された「新たな高校づくりに関する指針」(以下「旧指針」)を見直し、「これからの高校づくりに関する指針」(以下「新指針」)を決定した。「新指針」では高校配置の基本的な考え方や、「社会の変化や時代の要請に応える」高校づくりについての具体的な施策が示されている。
われわれは昨年9月に示された「これからの高校づくりに関する指針(素案)」(以下「素案」)に対して、パブリックコメントを通じて、その抜本的な見直しを求めた。同時に、小規模総合学科やフィールド制の普通科への学科転換、遠隔授業の廃止、学校のさらなる序列化につながる「特色づくり」など、具体的な見直しを提案した。しかしながら、学校現場の切実な要求から発せられたそれらの声は、一つも「新指針」に反映されることはなかった。パブリックコメントには29団体、41人、のべ218件の意見が寄せられたが、「新指針」に反映されたものは一つもない。「案を修正していないが、今後の施策の進め方等の参考とするもの」に該当する意見もたったの9項目であり、広く道民から意見を募集し、それを参考に施策を決定するという意欲すら感じられない。
「旧指針」において、道内では38の公立高校が閉校し、そのうち18の自治体から地域唯一の高校が無くなった。「新指針」においても、「1学年4~8学級を望ましい学級規模」とし、3学級以下は原則統廃合の対象としている。今後も「新指針」に従って統廃合を推し進めるならば、実に93校が統廃合の対象となり、46%もの高校の存続が脅かされることになる。この明らかに破綻した原則に対して、パブリックコメントには「『望ましい学校規模を4~8学級として再編整備をすすめる』とした指針は根本的に見直すべき」という実にまっとうな意見が24件も寄せられている。しかしながら、道教委は北海道の広域性を鑑みることもせず、相変わらずこの原則に固執している。また、「1学年4~8学級を望ましい学級規模」とする学問的かつ客観的な根拠も示していない。
教育の機会均等とゆきとどいた教育を実現するためにどのような条件整備が必要なのか、教育行政はまずその点を考慮して施策をすすめるのが当然の責務である。しかしながら「新指針」は「旧指針」同様、経済的な効率性を最優先させた「高校統廃合をすすめるための指針」にしかなっていない。
2.「地域連携特例校」の統廃合の人数要件に条件をつけるべきではない
「第1学年の在籍者数が2年連続して10人未満となった場合には再編整備を行う」とし、統廃合の人数要件を、20人から10人に引き下げた。しかしながら、一方で、「地域連携特例校」には様々な条件が課せられている。例えば、ICTを利用した遠隔授業は、対面授業と同等の教育効果が保障されるものではない。ICT技術の活用をすべて否定するものではないが、経済的な効率性を重視するためにICTを導入することには反対である。学校教育の目標は「人格の完成」であり、生徒と教職員との直接的な人格のふれ合いの中で生徒は成長していく。また、遠隔システムは授業の準備にも時間がかかり、授業者だけではなく授業を受ける側にも教員を配置しなくてはならないケースも多い。特に実習教科においては安全性の面でも大変危惧される。遠隔授業はあくまでも授業の補助的なシステムとして考えられるべきである。
パブリックコメントにも「地域連携校については、条件付で再編統合を留保するのではなく、現状を考慮し一律に10人にすること」という意見が16件も寄せられている。また、「条件付で再編統合を留保するとしたのは、道が市町村の高校存続に向けての努力を高見から査定するような姿勢であり、評価できない」との意見は、まさに道教委の姿勢の正鵠を射貫く指摘である。
3.「新しいタイプの学校づくり」ではなく、地域の願いや実態に応じた学校づくりへ
すでに普通科フィールド制は破綻をきたしている。教員加配もつかないままでは、道教委が押しつけている「特色ある教育課程づくり」すらすすめられるわけがない。道教委は総合学科や単位制への移行など、「制度の見直しを含めて在り方を検討」するとしているが、同じく問題をはらんでいる小規模総合学科については、一向に見直そうとはしない。総合学科は学級減となり教員定数を減らされた場合、幅広い選択科目を設定することができるのか、設置当初から不安要素があった。こうした懸念どおり、総合学科の実情を省みない機械的な教員定数減によって、道教委が押しつけたはずの「特色」すら発揮できない状況に陥っている。また、これらの学校においては教員の長時間過密労働が常態化しており、その解決には一刻の猶予も待てない状況である。普通科フィールド制や小規模総合学科の破綻は明らかである。単位制普通科への学科転換のみならず、学年制普通科への転換も含めて検討するべきである。
道教委は「新指針」においても、「社会の変化や生徒の多様な学習ニーズなどに対応するため」とし、総合学科、単位制、中高一貫教育など多様なタイプの学校づくりをより一層推進しようとしているが、道民が望んではいない学校をなぜつくり続けようとするのか甚だ疑問である。道教委自らが行った調査によれば、中学生の58.9%、保護者(中学生)の55.2%が普通科を希望している。その割合は前回調査(2005年)と比べて中学生で4.0%、保護者で5.6%上昇している。更に、志望校を決める際の通学の条件は、中学生の45.3%、保護者(中学生)の46.7%が「自宅の近く」と回答しており、「多少遠くても自宅から通学」よりもそれぞれ高い割合となっている。近隣の学校を再編して通学時間を延ばし、石狩管内においては「1学区制」を導入し、「特色づくり」によって学校の「多様化」を追求してきた道教委の方針は、生徒や保護者の希望に合致したものとは言えない。道教委施策の抜本的な方向転換を行い、学校再編の流れを止め、「特色ある学校づくり」をこれ以上推進しないことが、合理的かつ当然の結論となる。
4.ゆきとどいた教育をすすめるため、「新指針」の抜本的見直しを求める
「新指針」においても、学級定員については国の基準通り40人としている。独自に少人数学級を実現している自治体も多く、一人ひとりにゆきとどいた教育を保障するため、北海道においても当然検討されるべき施策である。パブリックコメントにも、「1学級定数40名という旧態依然として学級定員を高校づくりの基準とするのは不適切」「北海道の特殊性を踏まえ、国に強力に働かけていくべき」などの意見が複数寄せられている。35人以下学級の実現は「特色づくり」や「学級規模の確保」よりも優先するべき課題である。
わたしたちは、教育予算の増額、国の責任による少人数学級の前進、教職員定数増、教育費無償化などの前進を求める「教育全国署名」など、教育諸条件整備を求める運動を長年にわたり続けてきた。道高教組・道教組は、地域住民や保護者、生徒、教職員の要求から、「新指針」の抜本的な見直しを求め、すべての道民とともにゆきとどいた教育を求める運動をすすめていくことを改めて表明する。
以 上
2018年3月28日
北海道高等学校教職員組合連合会
全北海道教職員組合