「全国一斉学力テスト」による競争教育・順位争いを改め、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育を大切にしましょう

1 子ども・教員を「学力」競争に追い込む文科省・道教委は、人間的成長が期待される学校を息苦しい競争社会にかえています

文科省は8月28日、全国の小学校6年生と中学校3年生を対象に実施した「全国学力・学習状況調査」(以下、「学力テスト」)の結果を公表しました。今回で10回目になりますが、都道府県別の結果公表に加え、初めて政令指定都市の結果も公表しました。文科省は、「地域間格差の縮小傾が続く一方、知識の活用力は引き続き課題」などとしています。
道教委は今回の結果を受け、「平成29年度全国学力・学習状況の本道の状況については、小・中学校のすべての教科で全国を下回っている。昨年度と比べて、全国との差が、小学校国語A、国語B、算数A、算数B、中学校国語Bの5教科で縮まり、中学校国語A、数学A、数学Bの3教科で広がった。小学校はすべての教科で全国との差が2.4ポイント、中学校は、すべての教科で1.2ポイント以内。中学校国語A、及び国語Bの2教科は全国と同じ」とする結果の概要を公表しました。
文科省・道教委による「学力テスト」体制は、子どもや教員ばかりでなく、家庭までも過度な点数競争に巻き込み、教員や子どもたちを追い込み、本来人間的成長の場である学校という空間を息苦しい競争社会に変えてきました。また、「学力テスト」と同時に行われる質問紙調査(学習状況調査)によって、子ども個々の日常生活を詳細に質問し、肯定的な回答が「子どものあるべき姿」として生活目標に刷り込まれる仕組みになっています。大人が子どもの時間の使い方を「管理」することにもなり、子どもの自立を促す教育本来の姿からかけ離れたものになります。

2 道教委は、学校・教員・子どもたちを点数競争に追い込み、本来楽しいはずの授業を「学力テスト」対策に歪めてはなりません

文科省・道教委による「学力テスト」競争が苛烈になり、全道でチャレンジテストによる反復練習や過去問対策が増え、生徒の知的好奇心を刺激する授業本来の楽しい授業が、「学力テスト」対策のために、つまらない授業になっていないでしょうか。子どもや保護者、そして教員も「学力テスト」対策に追い込まれ、学ぶこと自体を楽しみ、人間的関わりを紡ぐ、生きいきとした学校生活に陰りが生じていると言っても過言ではありません。道教委も「平成29年度には、すべての教科で全国平均以上となるよう目標の実現に向けて取り組む」という方針を掲げ、全道の子ども、教員、保護者をさらに追い込んできました。
道教委は、2011年以降の「平均正答率で全国平均以上にする」という方針の具体化として、各学校にチャレンジテストを強制し、春休みの宿題を促し、新学期に過去問や類似問題の繰り返し、日常的に宿題を増やすなどの指示が行われています。一方家庭に対しては、家庭学習時間を増やすことや早寝・早起き・朝ごはん、テレビの時間を減らすことなどを家庭の事情などお構いなしに一方的な生活習慣を押しつけています。子どもの権利条約31条では、「休憩及び余暇についての児童の権利」「文化的及び芸術的な生活に十分参加する権利」を謳っていますが、日本の子どもたちには保障されていないのでしょうか。日本の過度な競争主義に対し、国連子どもの権利委員会は、日本の過度な競争主義に対し数度に渡り問題点を指摘しているのは周知の通りです。
このような文科省や道教委の姿勢のもと、今年も全道の子どもや家庭、教師たちは「学力テスト」に臨まなければなりませんでした。

3 今年からは政令市別の結果公表、回を重ねるごとに点数競争を激化させ、教育を歪めています

文科省は都道府県別の結果を公表しつつ、2014年度からは自治体判断によって学校別成績の公表を認めました。北海道でもいくつかの教育委員会が公表し、まさに学校間の序列化と言えます。今回からは政令市別の結果を公表し、回を重ねるごとに点数競争を激化させ、教育を歪めています。そして、「学力テスト」体制重視により、自主的に創意工夫した授業をする自由を教師から奪うものとなっています。 
わたしたちは、真に平和で民主的な社会を築くためには、何よりも全ての子ども・青年に市民として主体的に行動する「生きる力」「確かな学力」を身につけることが必要と考えています。「学力テスト」は本来、子どもの理解やつまずきを指導者が把握し、指導法の改善に役立てるべきもので、まして、数値で計れるものと、そうでないものがあることは周知であり、数値で計測可能な結果の順位が子どもたちの人間的成長を表すものでないことは教育の原理に基づいて考えれば明らかです。
「学力テスト」の順位を意識した学校生活は、子どもと子ども、子どもと教師、教師と教師、そして家庭との豊かな関わりを奪うばかりでなく、学校行事や総合的な学習の時間の削減など豊かな学びを創造する学習の機会をも奪うことになりかねません。子どもや保護者、教師と地域社会までも巻き込んで、果てしない競争教育に駆り立てる「学力テスト」のあり方は直ちに見直されるべきです。

4 財界の求めるグローバル人材育成、競争主義、「学力テスト」の弊害を改め、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育を大切にしましょう

政府は「世界で企業が一番活躍しやすい国」を支えるグローバル人材を求める財界の根強い要請に沿って、競争主義社会を勝ち抜いた一部のエリートを中心とした社会、弱者冷遇の新自由主義的社会の固定化めざし躍起になっています。こうした社会だからこそ「学力テスト」は、学校と教員を点数偏重主義にいっそう駆り立てるシステムとなり、早期に「エリート」を選別するために機能していると言えます。こうした過度な競争主義によって、子どもたちの学ぶ意欲ばかりか個性や発達にまで歪みが生じてきていることは、多々指摘されているとおりです。
文科省は2015年、全教(全日本教職員組合)の申し入れに対し、「全国的な学力の把握は数パーセントの実施で可能」と回答しています。毎年50億~60億円も使い、同じような傾向を把握するため、全員参加の「学力テスト」は直ちに中止すべきです。そして、この予算は、35人学級の拡充や長時間過密労働で日夜働いている教師の負担軽減など教育条件整備に使うべきです。
文科省・道教委には、子どもと教師、保護者に過度のストレスをかける政策から、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育という憲法や子どもの権利条約の基本に立ち返って、その競争主義的な教育政策を根本的に転換することを求めます。

2017年8月30日      
全 北 海 道 教 職 員 組 合
北海道高等学校教職員組合連合会

2017年度「全国学力・学習状況調査」結果公表にあたって【見解】