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― 茶色の朝を迎えないために -
道教委のクリアファイル調査問題を考える緊急市民集会アピール

…主人公はある日、友人に彼の飼犬だった黒色のラブラドールを安楽死させたと告げられる。毛が茶色以外の犬猫を飼ってはならないという法律を政府がつくったからだ。主人公は胸を痛めるが“のど元過ぎれば熱さも忘れるものさ”と呑気に構える。そのうちこの法律を批判する新聞が廃刊に追い込まれ、やがて人々は「茶色に染まること」に慣れてく―。国家権力が日々の生活に知らぬ間に忍び込み、人びとの行動や考え方を支配していくさまを描いた、フランク・パブロフ氏の短編寓話『茶色の朝』は、当面のトラブルを避けることが、ファシズム台頭を許すと警鐘を鳴らした作品です。

道民のみなさん
 道高教組が組合員に渡した「アベ政治を許さない」と記されたクリアファイルが自民党道議によって問題視され、道教委が所持者や使用実態を密告させる違法調査を強行しました。職場でのクリアファイルの配布や、所持を見た場合は日時、場所、人物名まで記入させるという監視、密告を奨励する調査内容であり、職場相互の信頼関係、協調関係を根本的に破壊するものです。教職員のプライバシーや政治活動の自由、思想・良心の自由を土足で踏みにじる調査は正当化される余地はなく、憲法28条が保障する組合活動への不当な介入・不当労働行為であることは明白です。教育への不当な政治介入に対し、道高教組をはじめ、北海道労働組合総連合、全北海道教職員組合、新日本婦人の会北海道本部、全日本教職員組合などが相次いで「調査の中止・撤回」を求める声明や見解を発表したことは、至極当然のことです。

道民のみなさん
 『茶色の朝』を想起させる実例は全国で相次いで起きています。戦争法案を批判する報道に関し、「マスコミをこらしめるには広告収入をなくせばいい」と発言する国会議員。政権批判の記述があった試験問題について「政治的公平を定めた放送法に基づき不適切」として、学内サイトへの掲載時に削除した放送大学。「安全保障関連法に反対する学者の会」が開催を計画していたシンポジウムについて、会場の貸出を断った立教大学。山口県では運動会で「9条Tシャツ」を着ていた教員が保護者から指摘を受けたりするなど、多様な意見が封じられるこれらの出来事は、戦前、戦中の言論弾圧を彷彿させるものです。

道民のみなさん
 この夏、暴走するアベ政権にNOを突きつけた若者たちが「民主主義ってこれだ」と全国で立ち上がりました。デマや誹謗中傷にも屈することなく、戦争法が強行可決された後も、民主主義をとりもどすため声を上げ続けています。道教委による違法なクリアファイル調査は、対象とされた教職員一人ひとりの人権侵害ということだけの問題ではありません。ひとり道高教組、教育界だけの問題でもありません。公権力による言論統制を放置することは、言論表現の自由を保障することによって維持される民主主義社会の根底を揺るがす大きな問題です。「私たちのだれもがもっている怠慢、臆病、自己保身、他者への無関心といった日常的な態度の積み重ねが、ファシズムや全体主義を成立させる重要な要因である」。『茶色の朝』のあとがきに書かれている一節です。道教委などによる過剰な対応や不当な介入は、今後も執拗に続けられることが予測されます。「それならやめておこう」と自主規制することを狙い、タブー・自粛を植えつけることがその目的だからです。

道民のみなさん
 私たちは、「おかしなことには、おかしい」と声を上げ続けていきます。不当な政治圧力に屈せず、「やり過ごさない」「思考停止しない」ことの大切さを主張していきます。私たちは屈しません。プライバシーの自由を守るために、思想・良心・表現の自由を守るために、教育の自由を守るために、組合活動の自由を保障するために、民主主義を守るために、そして茶色の朝を迎えないために。

2015年11月2日
道教委のクリアファイル調査問題を考える緊急市民集会