教育の機会均等、子どもの学習権を脅かす「指針」と「高校配置計画」の見直しを求める 

~「公立高等学校配置計画」(2018~2020年度)、2018年度「公立特別支援学校配置計画」に対する声明~

1.はじめに
 北海道教育委員会(以下、道教委)は9月5日、「公立高等学校配置計画」(2018~2020年度。以下、「高校配置計画」)と「公立特別支援学校配置計画」(2018年度。以下、「特別支援学校配置計画」)を発表した。
 「高校配置計画」では、今年度の新たな計画として、2018年度に余市紅志など5校の1学級増が示されたほか、上ノ国高校(センター校は江差高校)と雄武高校(センター校は紋別高校)の地域キャンパス校化、2019年度に私立江陵高校の募集停止にともない幕別高校の2学級増(私立江陵高校の校舎を使用)、室蘭工業高校情報技術科、北見商業高校商業科の1学級減、函館市内の新設校と稚内高校への単位制導入が決定された。また、2020年度に深川東高校など24校25学級の大幅な学級減が発表されたが、6月の配置計画案で示されていた空知南学区の1学級減が岩見沢農業高校から岩見沢緑陵高校に変更された。
 私たちは、「新たな高校教育に関する指針(2006年度。以下「指針」)」に対して一貫して見直しを求めてきた。この「指針」は、経済性・効率性を最優先した統廃合基準をその特徴としている。北海道の広域性を考えるならば、国の基準をそのまま引き受けることは即統廃合につながり、その歪みは至る所に生じている。特に、職業学科の間口減は学科の閉科に直結し、総合学科や単位制高校の場合は教育課程の大幅な変更を余儀なくされる。また、幕別高校については、公立と私立の同居状態が生じることでの管理体制や、2つの校舎を同時に展開することでの混乱が予想される。こうした生徒への不利益をかえりみない機械的な間口減は、学校づくりの根幹を揺るがしかねず、とうてい容認できるもではない。
 私たちはあらためて道教委に対し、「指針」の見直しと「高校配置計画」の撤回を求めるものである。

2.地域や子どもたちの声に耳を傾け、その意見を教育政策に反映することを求める
 私たちは、6月の配置計画案に対して、地域別検討協議会などで出された地域の声に十分耳を傾けるよう求めた。しかし、今回の公立高等学校配置計画において、これらの意見が反映されているとは到底思えない。地域別検討協議会では、小規模校の存続や間口の維持、職業学科の意義など多岐にわたる意見があがっている。4~8間口がなぜ望ましい学校規模なのか再三に渡り問われているが、道教委は客観的な根拠を示して説明していない。また、配置計画で間口減が示された24校25学級については、中卒者を基数として学校を配置しただけの機械的な数合わせに過ぎず、個々の地域の実情や学校の実態を考慮しているとは到底思えない。
 空知南学区において道教委は当初「岩見沢農業高校で1学級減」と公表していたが、7月に「岩見沢緑陵を1学級減らせば岩見沢農業高校の学級減の方針を見送る」と岩見沢市に伝えた。市は「岩見沢農業高校は道内で唯一農業関係全科目を履修できる」などを理由に、市立緑陵高校の1学級減という苦渋の決断を強いられたが、両校を秤にかける道教委のやり方には大きな疑問が残る。
 道教委は地域別検討協議会でも再三意見があがっている少人数学級の弾力的運用を実現させ、北海道の広域性と個々の地域や学校の事情に見合った配置計画を示すべきである。
 

3.特別支援教育の充実のための十分な条件整備を求める
 特別支援教育が始まり10年が経過し、少子化の進行と相反するように、特別支援学校・学級に在籍する子どもたちは増加し、北海道においては知的障害特別支援学校の在籍者は1.5倍にも膨らんでいる。この間に増設された16校の知的障害特別支援学校は、そのほとんどが統廃合の校舎を増築・改修して使用しており、施設・設備が不十分との声が保護者や学校現場から上がっている。特別支援学校配置計画では、2019年度に函館稜北高校の空き教室に機能移転を含めて4学級相当、釧路鶴野支援学校を増築して3学級相当、2020年度に道北圏の既存施設の活用で3学級程度の学級増の見通しを示しているが、これらの学級増に伴っては、十分な条件整備が求められる。
文科省は、2018年度から「高等学校における通級による指導」の制度運用を開始するとしており、現在、道内でもモデル事業を通して準備がすすめられている。インクルーシブ教育とは「すべての子どもたちに、学習する権利、発達する権利を保障する教育」であると私たちは考えている。特別な支援を必要とする子どもたちの支援・指導の場が保障され、高校における特別支援教育がさらに充実するものとなるよう、多くの高校で通級指導教室が配置されることが求められる。そのためにも、超勤や多忙化が深刻している学校現場の負担増とならないよう、人員配置も含めて十分な条件整備が求められる。

4.学校現場や地域社会の意見を真摯に受け止め、それらの意見を反映させた「新しい指針」を早急に示すべき
 2006年に「指針」が出されて以降、38校の高校が閉校した。私たちは4年間にわたり、全道179自治体を訪問し首長や教育長と懇談を重ねてきた。各自治体では地域の子どもたちのため、交通費や制服代の補助、模試や検定代の負担にいたるまで、あらゆる支援を続けている。特に、高校統廃合については危機感を募らせており、高校が廃校に追い込まれた地域では「昼間、高校生の声が聞こえず、町に活気がなくなった」「学校がなくなったのは町づくりにとっても大きな打撃であった」などという声も聞こえ、地域社会に与える影響は計り知れない。私たちは教育の機会均等のために「指針」の見直しを強く求め続け、道教委はこうした声におされ、来年3月を目処に「新しい指針」を策定するとしている。
 この策定に向け、「ICTの活用など、教育環境の充実に向けた取組を推進」「地域キャンパス校の再編基準の緩和に向けた具体的人数要件」などが検討されているが、ICTを活用した遠隔授業では、対面授業と同等に教育的効果が現れているのか甚だ疑問である。我々が行っている授業は「教育」の一環であり、単なる知識の伝達ではない。実際の授業では、授業に向かう指導に始まり、対面授業の中で行われる生徒と教職員とのやりとりを通して、生徒自身が主体的に考える学びへと発展するよう努めている。どんなに機器が発達しようとも、遠隔授業はこうした豊かな学びを保障するものにはなり得ない。
 また、「総合学科」など、いわゆる「新しいタイプの学校」についても、この10年の間に間口減を強いられ、その結果教育課程の大幅な変更を余儀なくされ、学校現場はその都度混乱をきたしている。小規模の総合学科や教員加配のつかないフィールド制については、廃止も含めた検証をすすめるべきである。そもそも道教委が言う学校の特色づくりは、学校間の競争をあおり、教育の機会均等を損なうもので、到底認められない。
現在策定中の「北海道総合教育大綱(素案)」の中でも、「子どもの学びの環境を整える」ことを掲げ、「広域性を踏まえた学びの場」を確保することが盛り込まれている。私たちは教育の機会均等を保障し、一人ひとりの子どもたちにゆきとどいた教育をすすめる視点から、35人以下学級の実現を要求してきた。更に、北海道の広域性を踏まえ、機械的な学校統廃合がこれ以上行われないよう再三求めてきた。「再編基準の人数要件緩和」といった小手先の改定ではなく、「1学年4~8学級」を「望ましい学校規模」とする基準を抜本的に改めて、これ以上の学校統廃合を行なわず、道独自の予算で順次少人数学級をすすめていくことを強く求める。

5.ゆきとどいた教育をすすめるための教育政策への転換を求める
道教委は、機械的な高校統廃合や間口減をすすめる一方で、スーパーグローバルハイスクールやスーパーサイエンスハイスクールの研究指定事業により、「グローバル人材」の育成をすすめている。これら施策は、特定の「人材」を選別して特別な教育を施すものであり、国民誰もが権利として持っている教育の機会均等を、根本から揺るがしかねない。
現在、わたしたちは、ゆきとどいた教育を求める「教育全国署名」にとりくんでおり、教育予算をOECD諸国並に引き上げ、35人学級や教育の無償化を求めるなど、ゆきとどいた教育を求めるすべての道民とともに運動をすすめている。子どもたち、保護者、現場の教職員、地域住民の願いや実態に基づいた学校づくりのとりくみを今後さらに強めていくことをあらためて表明する。

以 上

2017年9月5日

北海道高等学校教職員組合連合会
全北海道教職員組合

配置計画についての声明(2017年9月)